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Encyclopedia of niime

インターン生3人組、tamaki niimeを語る。

2023 . 06 . 22

tamaki niime 中畑寮の泊まり込み密着取材のその日にたまたま大阪から来ていたインターンシップ研修生、イクミくん・チカさん・ハルくん。

大阪にある上田安子服飾専門学校の4年制プロデュース学科に通学し、でデザイン・製作に留まらず、トータルに企画から販促・販売までの服のプロデュースについて学んでいるという3人組は、学校の研修で一度Showroom&Labを見学した後に、再び希望してここへやってきた。

人々のニーズが益々多様化・細分化し、SDGsにも掲げられている環境への配慮や持続性の課題も問われているファッション業界の今。

素材選びから自分で服づくりをする中で、分業化している業界では全体的な製作の流れの把握が可能な企業がなかなか見つけられない。ここは製作から販売までの行程をすべて集約して知ることができる場だと考えやってきたハルくん。

自分が何がやりたいのかを今わからなくなってきて迷走気味、とりあえず色んなことを経験してみたい。ここではイチからのモノづくりに取り組んでいることに惹かれたというイクミくん。

学校での見学時にtamaki niimeがすごく面白そうと感じ、インターンシップ研修生募集もあると聞き、一体どんなだろう?と無茶気になって応募しましたと話すチカさん。

服が大好きで、好奇心旺盛に様々な物事を学びつつも、卒業後どのような方向・職種を目指してゆくのか…中畑寮のアットホームな空気感の中、タコ焼きをつつきながら、希望とともに悩みもあるそれぞれの胸の内を聞けた。

あらゆることを吸収するのに意欲的な3人組に、10日間の課程を無事終えたその日の夕方、インターンシップ研修を受けてどうだったのか?研修で得たものは?改めて、ホットな生の声を聞かせてもらった。



チカ「この研修がどうだったか?…思ってたのとは違うって感じですね。」
イクミ「そうですね。もっと無茶アパレル企業してると思って僕はやって来たんですけど…」
—— はい。

イクミ「もう全っ然、そんなことなかったですね。色んな面で。」
—— 裏切られた?(笑)

チカ「いや、いい意味の裏切りというか(笑)。」
イクミ「僕、鹿の解体とかしましたもん。よかったらやってみる?みたいな感じで。たぶん他でやる機会って無いんで、やっとこうかな、という感じでやりましたね。」
—— 全然大丈夫だった?

イクミ「そうですね。面白かったです。鹿がいま有害鳥獣として駆除・処分されてるということで、こちらでは獲った鹿の命を大事に活用しようとしてるという話を聞きました。」

tamaki niimeでは狩猟免許を持つスタッフが鹿を捕り、その肉を冷凍保存しつつオオカミ犬シンちゃんの餌として与えたり、皮を鞣(なめ)してもらい作品の素材として使う計画も進んでいるとのことだ。


—— 鹿の解体が衝撃やったと。

イクミ「そうですね。畑とかもやるとは思ってなかったんで。」
—— 畑には3人とも?

チカ「はい。2日間行きました。」
ハル「手で肥料を撒いたり。思ってる以上に…“重労働”が多いっていうか。」
—— 身体を使うと。

ハル「中の作業だと、『洗い』とかだったら、洗濯して濡れたものを一気に容器に入れて手で持つんで。」
チカ「皆んなバキバキになってたな、身体が(笑)。」
—— それぞれどこのチームに行った感じですか?

チカ「同じところを…」
イクミ「皆んなでローテーションしたって感じです。『織り』と『縫う』と『実る』が2日ずつあって、『染め』『洗い』『編み』が1日ずつで、休み入れて10日間。」
ハル「インスタとか、ネットで会社のことを調べた上で来てるけれども、知らなかった部分が多過ぎて…みたいな。」
—— そうなんや。

ハル「なんか、畑もやってたり、環境に良いことをいっぱいしてるのに、発信がまだまだ届いてないのかな、と研修を受けながらずっと考えてました。tamaki niimeファンの人は知ってるんやろうけど、たまたまネットで見かけた人とかには服以外のところの良さが伝わりにくいんかなぁって。」
イクミ「全部を知るまでには時間もかかるやろうし。」
チカ「朝礼の後にミーティングの時間があって、どんな風に販促活動をすれば良いかを皆んなで話し合ってたんですけど、私たちが学校では学んでないような新しいアイデアの意見交換をされてて。」
ハル「今後マーケットを広げてゆくためには何を始めるか?学校で習っていることだけでは考えつかないような、現場の空気みたいなものを感じましたね。」

ShowroomとLabが隣り合わせで存在する、作品のクリエーションから販促・販売までがシームレスにつながっているtamaki niimeだからこそのダイレクトな意見交換の場を3人はリアルに体感したということなのだろう。


ハル「全く異なるチームの人がガーッて熱く話し出すみたいな。意外というか、驚きでした。」
チカ「うん。」
—— 他のチームにも口出しするみたいな(笑)。そこは交わってるよね。


玉木と酒井がスタッフに説いてきた垣根のない・遠慮のないディスカッションの実践がスタッフ間に浸透しているのだろう。言いたいことをフラットに言い合う。生な意見のぶつかり合いがパワーになりブランドの推進力となる。

ファッションブランドからネイチャーブランドへ。服飾の世界に決して納まりきらない、tamaki niimeの世界観と方向性を若く瑞々しい感性で垣間見てトータルに体感した3人の意見に耳を傾ける。


—— やっぱり「服が好き」という想いで研修に来たわけじゃないですか?そこで面食らったこととかもあったかと思うんですけど。

ハル「自分でも服づくりをしてるんですけど、柔らかい生地が欲しいってなった時に、普通にウールとか化学繊維に逃げちゃうんですけど、ここの人たちはそこを綿素材で、技術だけでやってたり。」
—— うんうん。

ハル「色とかも、自分たちで染めるからこそこの色が出せる、という自信というか。それを持ってて。」
—— 誇りというか良い意味でのプライドというか。

ハル「それがあるから、これだけことが出来るかな…って。で、皆んなが皆んな、この会社が好きというか…なんでしょうね?(笑)。」
—— そんな空気感を感じたわけですね。

ハル「色々と話を聞いて、色糸の選び方とか配色についての考え方とか、あ、自分でも使えるなとか思えたんで楽しかったです。」

既製の生地素材に飽き足らない玉木の探究心が彼女を播州織産地へと導き、織物職人とタッグを組んだ製作に向かわせ、遂には自ら機を織り始める生地開発に乗り出させた。

そのクリエーション精神はブランドtamaki niimeのモノづくりに脈々と受け継がれ、今3人の若いインターン生たちを刺激している。


—— イクミさんはどうですか?研修直前に聞いた時には迷走してるという話もありましたが。

イクミ「なんやろう…畑とかは全然、僕は好きでしたけど。一次産業的なところにも興味を持ち始めましたね。」
—— 服づくりの部分では?

イクミ「染めとかやってみて、ムラ染めっていう簡単な染め方をやらせてもらったんですけど面白くて。また違った染め方を自分で考案して出来上がったモノを販売してもいいみたいな話を聞いて。スタッフの方が自分のアイデアで染めたモノを売れるのが嬉しかったと。」
—— 「染あそび」というシリーズがありますよね。

イクミ「それですそれです。そんなこともさせてくれるんやみたいな。」

それぞれの創作行程でモノづくりに備わる遊びの要素・根源的な愉しさを自分の発想を絡めて体験できて、その先には販売への道筋までもが用意されている。


イクミ「それをちょっとやりたかったですね。」
チカ「ふふ(笑)。一日しかなかったもんな(笑)。」
—— もっと研修やりたかったと。それってスタッフの方々にとっても嬉しい声なのでは。

ハル「皆んなむっちゃ優しいし。聞いたら何でも教えてくれる(笑)。」
—— 教えたがりが揃っているという。

ハル「一個聞いたら百返ってくる。」
チカ「織機とかも全部説明してくれるし。」
—— あぁ〜(笑)。

チカ「9日間あったけど、どれも浅くしか掘れてないから、もっとやったら、もっと何か得られるのかな〜って思ったり。」
—— その辺り、学校の学びとリンクしてました?服のプロデュースを学んでる部分も含めて。

ハル「朝礼後のプレゼン・タイムで皆んなで言い合いみたいな時とか、授業でマーケティング勉強してるので、ちゃんと理解して聞けるとか、糸の種類の話とかミシンの種類や縫製のやり方とか色々と教えてもらっても、少しは知ってるからこそ質問が出来るみたいな。」
—— 基礎知識は身につけてるから。

ハル「けど、それ以上に相手の方の知識がスゴイから、いっぱい勉強させてもらえてるみたいな。」
—— あぁ〜。よかったね、それは。

チカ「なんか、学校で学んだことって、正味言葉とか写真とかだけなのが、実際に観て、あ、こういうことね!みたいな。より深く理解できるということが多かったかも。自分で糸を選んで、丸編み機で編んでもらって、作品としてキレイには仕上がったんですけど、じっくりと観たら想像とは編み方が違うくて。自分でやってみてやっとわかったみたいなところはありました。」
—— 作品を創らせてもらったと。

チカ「はい。色糸を選んで布を創る、糸選びをさせてもらいました。」
—— 自分で選んだ糸が生地になってゆく。すごく手ごたえあるでしょう?

チカ「わぁ〜ッ!てなる(笑)。毎回自分が思ったのと違う。」
イクミ「間違いない。」

縫い目なく一着の服を編み上げるホールガーメントで使う色糸や織機で織るショールの色糸も選ばせてもらったという。男性・女性、春夏・秋冬など与えられたテーマに沿った4色の組み合わせも考案した。


ハル「そこから良いモノなら作品として採用すると言われて。」
—— コンテストみたいな。採用されたモノはあった?

全員「ありました!!」
イクミ「選んでたら、自分の使う色って決まってるなと。自分の頭の中のカラーパレットがわかる、みたいな感じで言われて。見てみるとほんまにそうやなと。」
チカ「え、どんな色使ってたの?」
イクミ「黄色とか緑は全然なくて。青、黒とか。蛍光系もめっちゃ使ってたし。」
チカ&ハル「へぇ〜。」
イクミ「茶色も使ってなかったな。」
—— それはその場で自分の感覚で選んだみたいな?

イクミ「そうです。その場でヒラメキで選んで。凝り固まってるなって思って。色使えてないなと。」
ハル「色糸の組み合わせを8パターン創ったんですけど、自分の中ではむっちゃ色んな色選んでるつもりが…よく見たらどれも1色ずつは自分の好みの色が入ってるという。」
チカ「ハルくんのはギャルソン好きってわかる(笑)。」
—— 面白いね(笑)。

チカ「私はけっこう満遍ないって言われた。…なんかミサンガつくるん好きやから、そんな感じで。」
—— ああ〜、なるほど。

チカ「でも、出来上がりの想像が全然出来なかったけど。」
ハル「…今日ふと思ったのが、あんなに色のヴァリエーションがあって一点モノで推してるんやから、ショールの何パターンか、お客さんが自分で4色選んで創るショールみたいなのを打ち出してみてはどうかなと。」
—— 消費者と生産者の垣根を超えるみたいな。…ある意味、究極のモノづくりなのかも。

チカ「確かに。」
イクミ「究極、ぜんぶ体験出来る・させてくれるような企業になる。“コト消費”!」
—— モノからコトへ。

チカ「自分たちもなんか、研修受けながら色々体験させてもらってるみたいな感覚があった。」
ハル「休みの日にこっちに来て、色糸選んで織機使って織って洗い行って乾燥させて。で、ミシンで縫って仕上げて、作品お持ち帰りするみたいな。」
チカ「寮に泊まり込みで(笑)。」
—— ついでに販売も(笑)。企画提案から全部パックで…不可能じゃないかも。

ハル「学校でプロデュース寄りの勉強なんで、そんなことばっかり考えながら研修受けてましたね。新しい販売の方法ないかなとか。」
—— tamaki niimeに向いてるかも。

チカ「私は自分が迷走中なので、スタッフの人たちにここに来た理由とか、色んなこと聞いてたら、絶対ここで働きたかったからって人よりも、モノづくりがしたくて探しててたどり着いたとか、アパレルには興味なくて全然違うところから来てる人がいたり、色んな人がいて。」
—— 確かに。

チカ「だけど今ここにいることが愉しそうに見えるから、就活って、ぜったいこれ!って決めて挑む必要もないのかなって思いました。」

まいにちぜんぶたのしむ。日々心踊ることをとことんやること。それぞれに辿って来たルートは異なっても、モノづくり~創造に根を張りながら自由に枝葉を広げネイチャーブランドを志向する、それ自体が生態系のように変化する・進(新)化する在り方に共鳴する多様な人たちの集合体がtamaki niimeなのかもしれない。


チカ「会社っぽくないっていうか。皆んなフレンドリー、みたいな感じのところだったので。皆んな無茶活き活きしてる。こんな会社もあるんやって。」
イクミ「パートさんたちも愉しそうにしてたもんな。帰る前に今日も一日愉しかったって毎回思う、って言ってて。」
チカ「コットンの繊維から糸をつくって、糸を染めて…縫製までひと通り体験してみて、服一個創るのに無茶人が関わってるなって、改めて思いました。」
—— ここは一か所でそのことが実感できるよね。


播州織産地は織物の産地として、全国でも今や希少な域内でモノづくりの行程がほぼ完結出来るところであり、tamaki niimeそのものも、関連会社と連携しつつ、自己完結も可能な創作体制を整えている。


ハル「今年の1月に播州織コラボのコレクションみたいな機会があったんですよ、学校で。その時はまた別の工場に生地を発注したんですけど、同じ播州織でもこんなにも生地が違うんやと。」

素材としての播州織の柔軟さに加え、コットン栽培〜糸づくりから始まり、各行程ごとにモノづくりの追求を続けているからこその、無限にヴァリエーションの創造が出来てゆくLabの存在はクリエイター志望の若者にとっては、何より魅力的に違いない。


—— それでは最後に、中畑寮の感想をお願いします。

ハル「自転車での通いが遠かった(笑)。」
イクミ「会社の横くらいにあるのかなと思ってたら全然ちゃうなと。」
ハル「なんか、自分が社会人になった時に、こうゆう人生なのかな、みたいな。」
—— 将来像が見えた(笑)。

ハル「家に帰ったら子どもがワァッ!!みたいな。家族ってものを感じれたし。やさしいし。」
—— 怖くなかったですか、寮母さん。

チカ「中畑寮にいて、皆さんtamaki niimeで働いてる人たちだから、帰って来て子育てしながら晩ごはんつくって家事してやりくりして、朝起きて…ってやってるのを見てたら、ほんとにすごいなって。」
イクミ「子ども育てるって大変そう(笑)。2人いてケンカしとったら止め方がわからへん…。」
チカ「あたふたしとったな(笑)。」
イクミ「どうしたらいいんスか??って。」
—— それも学びやったと(笑)。

チカ「パパの研修やんな(笑)。」

10日間を経て盛りだくさんな研修をやり終えて再会した3人の充実した表情と弾む声が印象的だった。

tamaki niimeは良い意味で遊びと仕事の分け隔てがないシームレスな会社だ。ユニークで唯一無二のクリエーション環境を肌で感じた3人組。

はじめに抱いていたファッションブランドのイメージとの違いに驚き戸惑いつつも、若く柔軟な感性でtamaki niimeの本質を丸ごと掴んで溶け込んでいる活き活きとした姿に未来への希望を感じ嬉しい想いがした私だった。

ネイチャーブランドtamaki niime体験を経てしなやかに芽吹いてゆく3人3色・3人3様のこれからに期待したい。

Original Japanese text by Seiji Koshikawa.
English translation by Adam & Michiko Whipple.